2022年11月14日に投稿

Josh Haderの2022年を振り返る

2022年のJosh Haderについて振り返っていきます。


〇 シーズン前半


前半のHaderはまさに無双状態でした。

4月は10試合に登板し10セーブ、防御率は0.00。被打率はわずか.067と圧倒的な成績を残し、月間最優秀リリーフ賞を受賞します。

baseball referenceより



5月も失敗なしの8セーブを記録。5/13には開幕13試合連続セーブのMLB新記録を樹立します。

baseball referenceより



6月は、7日のPHI戦で逆転を許し連続無失点記録が40試合で止まりますが、以降はセーブ失敗なし。6セーブを記録します。

baseball referenceより




〇 7月から異変が


しかし、7/4~7/6のCHCとの3連戦から異変が起きます。

ここからは時系列で。


7/4、同点の9回に登板。鈴木誠也にランニングHRを許し1失点(チームは9回裏にサヨナラ)。


7/6、同点の9回に登板。1失点で敗戦投手に。


7/8、PIT戦、2点リードの9回に登板。
Vogelbachにタイムリーを許し1失点(相手の暴走に助けられ試合終了)。


7/12、MIN戦、3点リードの9回に登板。
2度の雨天中断で登板時間は24時過ぎ。そんな悪条件下でHaderは三者連続三振でセーブを記録。


翌日のMIN戦、同点の9回に登板。
一死もとれず四球→ヒット→3ランで敗戦投手に。


7/16、SF戦。3点リードの9回に登板。
HR→中フライ→HR→ヒット→死球→ヒット→満塁弾。6失点で敗戦投手に。


7/1時点で1.09だった防御率がわずか半月で4.50まで悪化しました。

オールスターブレイク後は2試合を無失点で抑えましが、明らかに本調子とは言えないピッチングでした。


baseball referenceより



〇 異変の原因


異変の原因を探る前に、前提として。

Haderの持ち球は速球(シンカー)とスライダーの2つです。チェンジアップもまれに投げますが、この2つがメインです。
月ごとの投球割合(%)




それでは、異変を探ってみます。

はじめに、期待値指標から確認します。
左が打率、右が長打率、実線が実際の指標、点線が期待値



打率、長打率それぞれ実際の数値と期待値が右肩上がりになっています。成績悪化に運の要素は絡んでいません。



続いて、球速。

単位はkm/h



速球は4月こそ155km/hを切っていますが、5月からは155~156km/hを推移しています。

スライダーも133km/h前後を推移しており、目立った変化はありません。




続いて、制球。

下のグラフは、マウンドからみたHaderの速球の投球ゾーンヒートマップです。

実線がストライクゾーン 。点線はストライクゾーンから約ボール1.2個分内・外のゾーン

成績悪化の原因はここにありました。

5、6月はストライクゾーン高めに投げ込まれていますが、7月になってど真ん中付近に集まっています。Haderの持ち味「ライジングファストボール」が全く生かされていません。



また、スライダーの制球も同様に悪化していました。



4、5月は右打者の内角低め、ゾーンいっぱいに投球できていますが、6月は高めに浮く投球が増え、7月にはストライクゾーンから2コ近く外れています



そして、この制球力悪化は空振りの減少にもつながっていました。

左:投球結果の内訳、右:ストライクの内訳(単位は%)



ストライクの割合が6月と比較して10ポイント近く減少。さらに、空振りが6ポイント減少し、ファールの割合が6ポイント増えています。


7月は「ストライクが入らない」かつ「空振りを奪えずファールで粘られる」投球が増えました。

Haderの本来の姿は、ライジングファストボールとスライダーでバットに当てさせない投球です。しかし、コントロールの乱れによってそうした投球ができなくなった。これがHaderの成績悪化の原因と考えられます。




〇 8月 〜新天地へ〜


8/1にトレードでパドレスに移籍します。


デビュー戦の8/2は9回に登板し無失点に抑えますが、次登板から再び乱調が続きます。

8/9:
3点差の9回に登板。1安打4四死球3失点。1イニング持たずに降板。


8/18:
同点の9回一死一二塁の場面で登板。1安打2四死球で引き継いだランナーを全員返し途中降板。


8/19:
同点の9回に登板。2安打1四球3失点で1アウトもとれず降板。



この日をもってHaderは守護神の座を降ろされます。



8/24:
7点ビハインドの8回に登板。2安打を許すも3奪三振で無失点。


8/28:
3点ビハインドの8回に登板。0.1回5安打2四球6失点で降板。



この月の成績とコマンドはこちら。



左が速球。右がスライダー


スライダーは右打者の内角低めにコントロールされていますが、速球は7月同様ど真ん中に集まっています。

速球の月間被打率は.478にまで落としており、やはりコマンド悪化が招いた不調といえるでしょう。




〇 9月~ポストシーズン


パドレスのコーチ陣は、Haderのコマンド悪化の原因が「つま先が安定しないまま上半身で勢いを補っていた」点にあると気づきます(参照)。

そしてHaderはコーチ陣とフォームの調整を図り、見事復活。プレーオフ進出に貢献しました。

baseball referenceより


ポストシーズンでもHaderは好調。
5試合に登板し、被安打1、無失点4セーブ、10奪三振の好投をみせました。




〇 アップグレード


9月のフォーム調整を経て、Haderはコマンドが改善されました。
速球を安定して高めに投げられ、空振りを奪えるようになったのです。

上:速球 / 下:スライダー


速球の空振り率(空振り/スイング)



しかし、それ以上に大きな変化が。

パドレスに移籍してから徐々に球速が上がっていました。

単位はkm/h



速球はポストシーズンで最速160.3km/hを記録するなど、7月から2km/h以上アップ。
スライダーは7月と比較してなんと4km/hも上昇しています。

フォーム調整がコマンドだけでなく球速にも良い影響を与えたのかもしれません。




〇 来年以降の不安材料


見事復活を果たしたHaderですが、少し気になる点があります。


下のグラフは、MLBに定着した2018年からのアームアングルの推移です。
※年ごとに点線で区切ってます。


ご覧のように、2018年から少しずつ腕の角度が上がっています。

デビュー当時はサイドスローだったフォームが、今年はスリークウォーター気味だったのです。


画像で比較すると一目瞭然です。
2021年4月

2022年7月


3枚を横に並べてみます。
左から19年→21年→22年


ご覧の通り3年間で腕が少しずつ上がっているのがわかります。
また、上体が起き上がり下半身に体重が乗っていないのも見てとれます。



この原因ですが、やはり勤続疲労だと思われます。

20年の短縮シーズンを除き毎年50試合以上登板しているうえ、常に160km/h近い豪速球を投げてきました。デビュー当時のクロスファイアーを見せられないのは無理もありません。


腕の角度と空振り率の関係に関しては、「同じ球速・縦変化の場合、腕の角度が低いほど空振りを奪いやすい」という分析結果があります(参照)。
このまま腕が上がり続けてしまうと、速球で空振りを稼げず、従来のスタイルでの活躍が厳しくなるのではと危惧しています。



今年に関しては先述のとおり、上半身で勢いを補おうとしたのが原因とみられます。
つま先が安定していないため、上半身と下半身のバランスが悪く、踏み込んだ時に体全体が右に傾く。さらに、上半身で勢いを補おうとして前のめりになり、腕が上がったとみられます。


2022年10月


横に並べた写真

フォーム調整後の映像をみると、上体とリリースポイントは高いですが、体の傾きは抑えられています。右足の踏ん張りが効いているのでしょう。


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